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第38話 あなたは口だけなんです

last update publish date: 2026-06-01 07:19:35
 社長室へ向かう廊下は、ひどく長く感じた。

 人事へ送った申し出は、もう朔弥さんのところへ届いているのだろう。御門ブライダル案件から外れる。城戸ホテルズとの対外窓口からも外れる。理由は、公正性に関する疑義が生じているため。

 仕事の文面としては、間違っていない。

 でも、そこには書かなかったことがある。

 御門家には戻らない。

 朔弥さんの妻でいることも、終わらせる。

 社長室の前に立つと、手のひらが冷えていた。

 ノックをすると、すぐに返事がある。

「入れ」

 扉を開けた瞬間、夜の静けさが流れ込んできた。

 社長室の照明は落とされていて、デスクの上だけが明るかった。窓の外には、まだ少しだけオフィス街の灯りが残っている。朔弥さんは上着を脱いだまま、デスクの前に立っていた。

 社長の顔をしている。

 そう思った。

 けれど、私を見る目だけは、少しも仕事のものではなかった。

「人事への申し出を見た」

「はい」

「どういうつもりだ」

 低い声だった。

 私は、用意してきた言葉を思い出す。

 嫌われるような形で、消えてください。

 澄麗の声が、耳の奥で冷
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